ニュースの概要

鳥取、島根、広島など中国山地のスキー場で、今季の営業開始を遅らせる動きが広がっています。自然降雪が少ないだけでなく、人工降雪を行っても気温が高ければ雪が定着しにくく、設備を動かせる時間そのものが限られるためです。広島県のめがひらスキー場は前年より約1週間遅い12月18日の開業を予定し、島根県の琴引フォレストパークも5年前と比べて約2週間遅い12月第3週の営業開始を見込んでいます。問題は一時的な暖冬ではなく、営業日数を前提に組み立ててきた地域観光の収益モデルが揺らいでいることです。

引用元: 中国地方のスキー場、降雪不足で営業開始を延期・人工降雪設備への投資を検討(The Japan Times)

分析・見解

雪の量より「降雪できる気温」が営業を左右する

スキー場の運営では、積雪量だけを見ても実態を把握できません。人工降雪機は水を細かな粒にして空気中で凍らせますが、気温や湿度が高いと粒が雪になる前に融けます。気温が数度違うだけで、同じ機械を同じ時間動かしても仕上がりは大きく変わります。つまり、設備を持っているかではなく、夜間に十分な低温が続くかが営業開始を決める条件になっています。

この変化は、山間部なら安全という従来の前提を崩します。標高の比較的低いゲレンデでは、寒波が短くなれば初期の雪作りに必要な連続時間を確保できません。開業日が一週間遅れるだけでも、年末年始の予約、学校行事、団体利用を逃す可能性があります。雪不足は現場の作業量を増やすだけでなく、販売できる期間を直接削る問題です。

人工降雪機は「導入」より稼働条件の設計が重要

人工降雪設備への投資は有力な対策ですが、機械を増やせば解決するわけではありません。必要になるのは、貯水池や配管、電力設備、ポンプ、夜間の人員、保守費用を含めた一体的な計画です。降雪機の台数を増やしても水源が不足すれば運転できず、電力契約が弱ければ寒波の短い時間帯に集中稼働できません。

投資判断では、平均的な冬ではなく、複数年の気温と降雪の記録を使って考える必要があります。例えば、人工降雪で営業開始を七日早められるとしても、その七日間の来場者数が少なければ回収は難しくなります。一方、年末年始や大会開催期間を安定して確保できるなら、単純な営業日数以上の価値が生まれます。設備投資の成否は、雪を作る能力より「どの期間を守るか」の設計で決まります。

営業日数の減少は周辺産業へ連鎖して広がる

スキー場の売上だけを対象にすると、対策の優先順位を誤る恐れがあります。宿泊施設、飲食店、レンタル店、交通事業者は、ゲレンデが開いていることを前提に冬の需要を見込んでいます。開業延期が続けば、宿泊予約のキャンセルや短期雇用の縮小が起こり、地域内で使われるお金も減ります。

逆に、営業できる日を確実に告知できれば、周辺事業者は価格や人員を調整しやすくなります。たとえ全面営業が難しくても、初心者向け斜面や子ども向け雪遊び区域を先に開ける方法があります。全面開業か休業かの二択から脱し、限られた雪を収益性の高い場所へ配分する発想が必要です。ここでは、ゲレンデ全体の見栄えより、来場者が目的を達成できる体験の確保が重要になります。

冬季依存を減らす地域運営へ転換する

気候の変化が続くなら、スキー場を冬だけの施設として維持することは難しくなります。夏の自転車、森林体験、キャンプ、合宿、展望利用などを組み合わせ、年間の売上を平準化する必要があります。冬の人工降雪設備も、夏季イベントの集客や通年の雇用維持と一体で評価すべきです。

ただし、季節商品の置き換えには時間がかかります。短期的には、営業判断を気温予測と予約状況に結び付け、開業可能な区域を段階的に販売する仕組みが現実的です。中長期では、標高、水源、電力、道路条件を地域ごとに比べ、すべての施設を同じように延命するのではなく、拠点を選んで投資する判断も避けられません。

ビジネスへの影響

投資前に「守る営業期間」を数字で決める

企業や自治体が人工降雪設備を検討する際は、導入費だけでなく、何日分の売上を守る投資なのかを明確にする必要があります。過去の気温、降雪、来場者数、客単価を日別に並べ、年末年始、三連休、学校休暇など重要な期間を特定します。そのうえで、設備がある場合とない場合の営業可能日数を複数の気温想定で比べます。

判断には、設備費、電気代、水の確保、修繕、人員費を含めます。営業日が増えても来場者が少ない平日だけなら効果は限定的です。一方、予約が集中する期間を確保できるなら、宿泊や飲食への波及を含めて評価できます。投資を一度に決めず、主要コースの整備、配管の更新、貯水能力の拡張という段階に分ける方法も、資金負担と失敗リスクを抑えます。

企業単独ではなく地域の予約と販売をつなぐ

雪不足の影響は施設ごとに異なるため、地域内で情報を共有する価値が高まります。スキー場が開ける区域と期間を早く示し、宿泊施設や交通事業者がそれに合わせて商品を作れば、直前キャンセルを減らせます。共通の営業情報、道路状況、レンタル在庫を発信し、初心者向け体験や雪遊びを含む複数の選択肢を用意することも有効です。

企業の意思決定者は、人工降雪機を単なる生産設備ではなく、販売計画を安定させる基盤として捉えるべきです。同時に、自然条件によって営業できない場合の返金、日程変更、代替体験をあらかじめ設計しておく必要があります。信頼を守る運用ができれば、雪の少ない年にも需要を完全に失わずに済みます。将来は、冬季の集客を維持しながら、夏季事業や地域交通との組み合わせで気候リスクを分散できる事業者ほど、投資を続けやすくなるでしょう。

関連記事