ニュースの概要
青森市議会の自民クラブに所属する議員8人が、市に公契約条例を設けるよう要望書を提出しました。背景にあるのは、2年続きの豪雪によって除雪・排雪の回数や作業時間が増え、車両、燃料、人員を抱える事業者の負担が重くなっていることです。要望書は、自治体から受注した業務の対価が元請けだけで止まらず、下請けや孫請けにも適正に配分される仕組みを求めています。これは単なる契約金額の議論ではなく、地域の道路や生活を守る担い手を、翌年以降も確保できるかという自治体運営の問題です。
引用元: 2年連続の豪雪を受け、青森市で除排雪業者が公契約条例の制定を要望(ABA)
分析・見解
除雪は臨時作業でなく継続的な公共サービス
今回の動きが示す本質は、除雪を「雪が降った時だけ発生する臨時の作業」ではなく、地域のインフラを維持するための継続的な公共サービスとして捉え直す必要性にあります。豪雪時には出動回数が増えるだけでなく、作業の難しさも上がります。路肩に寄せた雪の再処理、狭い生活道路での積み込み、夜間作業の延長、通行車両や歩行者への安全配慮など、契約書の標準的な作業量では吸収しにくい負荷が重なります。
燃料費や人件費上昇は下流の事業者ほど重くなる
特に重要なのは、費用の増加が元請け企業だけの問題ではない点です。除雪機械を保有する会社、運転手を派遣する事業者、排雪先まで運ぶ運送会社、故障時に修理を担う整備会社が連鎖的に関わります。たとえば燃料単価が上がり、運転手の拘束時間が長くなれば、契約金額が据え置きのままでは下流の事業者ほど利益が薄くなります。見積もり上は受注できても、修繕費や人件費を含めた実際の採算が合わなければ、保有車両の更新を先送りし、撤退や人員縮小につながります。
公契約条例の要は積算根拠の明確化と契約設計
公契約条例の意義は、最低賃金の確認だけに限定されません。発注者が、労務費、燃料費、機械損料、保険料、待機費を含む積算の根拠を明確にし、再委託先まで適正な条件が届いているかを確認する制度にできるかが焦点です。契約変更の基準をあらかじめ定め、降雪量、出動回数、作業時間、燃料価格などに応じて精算する方式を組み合わせれば、異常気象のたびに現場が赤字を抱える構造を緩和できます。
一方で、条例を制定するだけでは解決しません。発注単位が細かすぎれば事務負担が増え、地域ごとの業者数が少ない場合は入札競争が成立しにくくなります。反対に、広域で一括発注すれば効率は高まるものの、小規模事業者が参加できず、地域の機動力を失う恐れがあります。青森市のような積雪地域では、幹線道路と生活道路、排雪拠点への運搬を分け、地域企業が参加しやすい複数層の契約設計が現実的です。
記録技術と「維持費」としての除雪能力評価
技術面では、車両の位置情報、作業の開始・終了時刻、走行距離、燃料使用量、積雪の深さを記録する仕組みが、支払いの透明性を高めます。単に監視するのではなく、作業実績を下請けへの配分や追加精算に結び付けることが重要です。写真付きの作業報告や電子請求を共通化すれば、電話や紙に依存した確認作業を減らせます。ただし、機器の導入費や入力の負担を小規模事業者に押し付ければ逆効果です。自治体が共通の簡易システムを用意し、導入の支援まで担う必要があります。
独自の視点を加えるなら、適正な契約価格は「除雪費」ではなく、地域が保有する雪対応能力の維持費と考えるべきです。平年並みの冬だけを基準に安値を追求すると、暖冬の年には余剰に見える待機車両や熟練運転手が、豪雪年には不足します。防災備蓄と同じく、使わない期間にも一定の維持費が発生する資産です。今後は、通常作業の単価に加え、待機、緊急出動、深夜、異常降雪、排雪先の確保といった要素を分けて評価する契約へ移行できるかが、雪国自治体の持続性を左右します。
ビジネスへの影響
除排雪の実コストを分解して記録に残す
除排雪に関わる企業は、まず契約金額だけでなく、作業一回当たりの実コストを分解して記録する必要があります。燃料、運転手の拘束時間、車両の減価償却、タイヤや部品の消耗、保険、待機時間、排雪場までの空走を分ければ、次回の入札や契約協議で説明できる材料になります。過去二冬の実績を作業日、降雪量、出動台数、残業時間と結び付けて保存しておくことも有効です。
発注書の明確化と低コストな記録技術から着手
元請け企業は、下請けへの発注書に作業範囲、単価、追加作業の条件、支払日を明記し、急な増便や夜間作業を口頭で済ませない体制を整えるべきです。下請け側も、提示された単価が燃料費や人件費の変動を反映しているか確認し、赤字になりやすい作業を漫然と引き受けない判断が求められます。自治体にとっては、最低価格の抑制より、継続して稼働できる業者数、車両の更新率、作業完了時刻、苦情件数を評価指標に加えることが重要です。
投資の優先順位は、高価な自動化機器から始める必要はありません。位置情報付きの車両記録、スマートフォンによる写真報告、電子請求、共有された作業台帳だけでも、実績確認と支払いの遅れを改善できます。条例の検討段階では、元請け、下請け、運送、整備、労働者、自治体が参加する協議の場を設け、単価表と精算条件を公開できる範囲で標準化することが、担い手の流出を防ぐ近道です。